私がすすめるこの1冊 My recommended book No.4
株式会社ボイジャー 代表取締役社長 鎌田 純子
書くを楽しく、読むを楽しく
書くため・読むためのハードルを下げたいのです
1992年に電子出版の先駆けであるボイジャー設立に参画した鎌田純子さん。日本初の電子書籍制作ツール「エキスパンドブック」の開発にはじまり、特別な知識がなくても誰もが自由にその声や想いを後世に残せる社会に向けて、アクセシブルな出版に取り組まれています。
──鎌田さんは30年前からデジタルがもたらす自由な社会を、理念だけでなくツールを提供することで目指されていますよね。
デジタル技術って、やはりマクルーハンが言ったように身体機能の拡張だと思うのですよね。昨年『50代から始めるデジタル出版』という本を出したのですが、今ではツールを使ってご自身の体験を出版する80代の著者さんや、全盲の著者さんもいらっしゃいます。校正も耳で聞いたり、PCや点字ディスプレイなどのあらゆる技術を使われていて、メールでのやりとりだけでは、障害をお持ちとわからないこともあります。出版の障壁が低くなれば日本の文化として財産になりますし、電子化すれば物理的な保管の心配がありません。紙の本も1冊3万円くらいで電子化できるので、出版者の方にはぜひ自分事として今のうちに取り組んでいただきたいです。
──アクセシブルな本を制作するためのポイントをまとめて、ウェブで公開されるそうですね。
読書バリアフリー法やアクセシビリティというと、何だか難しい、対応しなければならないものが降ってきたと思われがちですが、出版はもともと知識を共有して世に広める活動ですよね。だから誰もが読めるよう、活字でも難しい漢字には苦労してルビを振ってきた歴史があります。電子も同様で、誰にでも使いやすいユニバーサルデザインの考え方にシフトしていくほうが自然です。
ボイジャーは、30年前にCD‐ROMで「新潮文庫の100冊」を電子化しましたが、大きな文字で読めることの価値に気づいてくださった読者が大勢いました。検索でき、読み上げでき、拡大もできる。視覚障害者からは、電子であればこそ、自分たちにとって本だと言えるのだ、と。それを忘れないようにしたい。その後もさまざまなご意見をいただきながら、ようやく個人の特性に合わせて形を変えるアクセシブルな本の在り方が見えてきました。その経験を共有したいと思っています。
──どのような資料集になるのでしょうか。
アクセシブルな出版物は、電子だけでもEPUBやDAISYがありますし、点字本やさわる絵本、LLブックなどもあります。その中でもEPUBは電子書店や電子図書館へ流通できる、そのためのポイントは八つだけですと解説しています。読書バリアフリー法についても、難解な法律用語が簡単にわかるように説明を付けました。
実際にどう読まれているかを体感することも大事なので、耳で聞く副読本も作りました。ルビはもちろん、ギャル文字や傍点、改行、スペースなどがどう読まれるのか、どうぞお聞きになってみてください。
──今後の目標はありますか。
出版者や編集者が音声読み上げのために代替テキストを入れる作業にはコストがかかりますから、近い将来は画像認識による読み上げも視野に入れて、今できる工夫から取り組んでいくのがよいと思います。電子にさえなっていれば、読書環境を格段に向上できます。
ボイジャーでは、アクセシブルなEPUB制作のポイントをまとめた資料をウェブで公開しています。
紙書籍を制作する段階でちょっと気をつけておけば、ストレスなく電子書籍化できるノウハウも詰まっています。ブックマークをおすすめします。
https://www.voyager.co.jp/next/about_e8/
出版物紹介
アクセシブルブック はじめのいっぽ
見る本、聞く本、触る本

著者名:宮田 和樹
馬場 千枝
萬谷 ひとみ
出版社:ボイジャー
発売日:2024年5月
印刷版ISBN:978-4-86689-343-3
印刷版 定価:2,200円(本体)
電子版ISBN:978-4-86689-342-6
電子版 価格:1,400円(本体)
2023年7月、市川沙央『ハンチバック』(「文學界」掲載)が第169回芥川賞を受賞、市川氏のコメントで、一気に「読書バリアフリー」の認知が広まりました。「読書バリアフリー」の下、注目のアクセシブルブックの種類や電子書籍の可能性を詳しく解説。
クレヨン王国の十二か月(上)(下)
〈大きな文字の講談社青い鳥文庫〉

著者名: 福永令三/作
三木由記子/絵
出版社:講談社
発売日:1980年11月
(2009年に講談社オンデマンドブックス、
2024年5月に読書工房めじろーブックス)
ISBN:(上)978-4-86807-004-7
(下)978-4-86807-005-4
定価:各巻3,000円(本体)
大みそかの夜、ユカが目をさますと、12本のクレヨンたちが会議をひらいていた。クレヨン王国の王さまが、王妃のわるいくせがなおらないうちはかえらない、といってゆくえをくらましたのだ。おどろいた王妃は、ユカといっしょに王さまをさがしもとめて、ふしぎな旅に出る。講談社児童文学新人賞受賞。
電子化にボイジャーほか関係各社が協力したことで、現在もさまざまな形態で読むことができる。